そんなことがあるのか、と一瞬耳を疑った。観光などをテーマとしたアジアと九州のジャーナリストの会議でフィリピンの記者が「タクシー運転手が、英語で指定したホテルに、空港から街をぐるぐる回って探し回り、1時間以上かかってたどり着いた。せめて行き先くらい聞き取れる英語力が必要だ」と指摘したのだ。そのホテルは福岡で仕事するタクシー運転手なら知らぬはずが無い老舗の大型ホテルである。たまたま地方から空港に客を送ってきたタクシーだったかもしれないが、観光問題に詳しいジャーナリストからこんな指摘を受けるとは、「国際都市」と言える次元ではない。
会議では、このエピソードをきっかけに、アジアと九州双方の観光関係者の語学力について盛り上がった。
会議に出席した海外記者は、帰国後、九州での体験を記事にしてくれる。フィリピンの記者の新聞社WEB版にその記者の署名記事が出た。一見すると、タクシー運転手を話題にしている。あの話を記事にしてしまったのか、と身構えた。読み進むと、帰国の際の話だ。
空港に着き、その運転手は料金を受け取った後、「フィリピン。タイフー、タイフー」と繰り返し言って1000円を返してきた。タクシーに乗った後、運転手は客がフィリピン人と察したようだ。英語が判るわけではないが、なんとか台風の惨事への支援をしたいとの気持ちが、空港到着時の行動となったようだ。記者は、そのお金を被災者への寄付受付に届けると約束し受け取った。記事は、いかに日本人がフィリピンの台風惨事に同情しているかを示す例として締めくくられていた。訪日した外国人と意思疎通する語学力は大事だが、基本は「おもてなし」をはじめとする外国人への「思いやりの心」が海外からの観光客の琴線に触れることを痛感させられたことだった。
九州の名誉挽回をしてくれたことになる運転手さんの名前は“Mikio Munayama”さんだ。