領土問題、どこまで冷静になれるか
2012年12月5日

尖閣諸島の国有化に端を発した中国の反応は、日本から見ると、度を越し、付き合いかねるとの印象だ。日本製品の不買運動は、日本経済に深刻な打撃を与えている。進出日本企業の中国人従業員の雇用問題、日本企業の対中投資も滞り、下降局面の中国経済にも影響が出ているはずだ。共産党一党支配の体制に対する国民の不満を日本に向けてそらすガス抜きだ、との解説にとりあえずは納得してしまうのだが。

 とはいえ、中国の領有権主張は本気モードだ。12月上旬時点でも海洋監視船が接続水域への出入りを繰り返している。尖閣周辺の天気予報の常態化、尖閣諸島の詳細な地図を添付して国連への提出、米欧への宣伝などなど、相当長期にわたって準備してきたものを、ここぞとばかり繰り出してきている。スタートしたばかりの習近平政権も、総選挙後の日本の政権の行方を注視しながら根競べを続けようというのだろう。

 そんな折、元外務省国際情報局長の孫崎享氏の講演を聞いた。近著「戦後史の正体」は、日本の政界、マスコミを対米自主派と従属派に色分けして戦後史のダイナミズムを説明する視点が受け、22万部のベストセラーとなっており、昨年出版した「日本の国境問題」は、韓国大統領の竹島上陸、尖閣諸島をめぐる日中間の緊張でこれも10万部を超えたという「時の人」である。柔らかな口調ながら、一般に評価の高い吉田茂を痛罵し、領土問題での日本の主張の弱さ、不利なパワーバランスを指摘し、正直、耳触りのいい話ではなく、それでは「日本は大丈夫なのか」と不安になってしまいそうだ。

 質問の機会があり、「日中関係に打開の道はあるか」と尋ねた。これに対して、孫崎氏は最近、中国のマスコミにインタビューを受け、「日中両国は、周恩来、鄧小平の知恵に学ぶべきだ」と述べたところ、中国で大きく報じられた、と披露した。日本側は公式には認めていないが、国交正常化交渉、平和友好条約交渉で中国側トップが発した尖閣棚上げ論が、落とし所になるのでは、との示唆だ。国有化が日中間の現状維持という暗黙の了解を崩したのではないか、と指摘する論もあり、すんなりと決着はしまい。だが衝突がエスカレートすれば、両国の国益に反することは両国の良識派の共通認識だろう。冷静な対話で双方が知恵を出し合うしかないのではないか。